アメリカ出張。飛行機の中で,Twitterで話題?のちきりんさん著「マーケット感覚を身につけよう」を読んだ。自己啓発書なんかは読まないからよく分からないけど,この本は多分そういうのとは違う気がする。
この本はマーケット感覚(価値の見つけ方)が主題の本だけど,お金が発生しないことでもあてはまることが説明されていて,自分の場合はフリーソフト作成にあてはまる。そこで,フリーソフト作成とマーケット感覚について考えてみたのでここに残しておこう。飛行機で映画見ない人はひたすら何かを考えてしまうわけですね。
フリーソフトというのは,自分のために作ったソフトを公開して,同じことに困っている人にも使ってもらおうという趣旨のものだが,ユーザは多い方がフィードバックももらえて作者もユーザも嬉しい。ただ,フリーソフトの性質上,万人に受け入れられるものではなく一部の人が嬉しいものなので,狭い市場でどれだけピンポイントでユーザに届けられるのかというのを考えないと,全く知られずに終わってしまう。
フリーソフトの価値
そもそもフリーソフトの価値って何? という話になるのだが,今まで漠然と考えていたのは以下。
企業が作るもの:
- 万人受けするものを作らないと規模が出ないので,一部の人だけが満足するようなソフトは作りづらい
- 作成者がユーザであることは希で,受注だったり上が決めた企画だったりするので,ユーザの感覚と開きが大きい
フリーソフト:
- 採算度外視なので,一部の人しか満足しないようなソフトでも作れる
- 作成者がユーザであることがほとんどなので,ユーザの感覚を熟知している
ゲームだと制作者の熱意によってまた違ってくるかも。個人的には,企業が作ったものはライトに使う分にはいいけど,ヘビーに使おうとすると使いづらい。逆にフリーソフトはその分野を知っている人ほど使いやすい印象。代表例だと,TV/DVD視聴ソフトとか電子書籍リーダーなんかは単なるコンテンツのおまけ程度で,使う人のことを全く考えていないUIが多い。
てことで,1年前に作ったAnalog Book Readerでは,そこの不満を解消するために,ユーザからしたらこういうのが欲しいんだよ,的な電子書籍リーダを作った。その辺は以前の日記で書いているのでいいとして。ただ,ダウンロード数はあってフィードバックももらっているんだけど,いまいちフィードバックをもらって解決して,的なループまでいっていない。
成功例
14年前,学生の時に作ったWeather Typingはマーケットをあまり意識しないで作っていたが,たまたまタイピングコミュニティの人達に届いてフィードバックをたくさんもらい,一緒に育てることができた。これを再度分析してみる。
Weather Typingは,当時SEGA ザ・タイピング・オブ・ザ・デッドをやり続けて,タイピング対戦だけに特化したソフトがあればいいのに,というきっかけで作ったが,対戦ができることが価値かというとそうではないんだろう。
その後,GANGASさんで紹介してもらってタイピングゲームのコミュニティから使ってもらうようになり,掲示板で議論しながら対戦機能を完成させていった。SWOTっぽく分析すると
- 企業とは違い,作者がユーザに近いところにいるのでリアルなフィードバックが得やすい位置にいる
- 作者自身がユーザなので要望の取り込み方,取捨選択の基準がしっかりしている
- 学生で時間があるので,ロビーサーバでユーザとチャットしたり実際に対戦したりできた
という強みがあって,
- 当時できつつあったタイピングソフトユーザのコミュニティ
- TVでタイピングソフトが取り上げられて,ちょっとした流行になっていた
という環境があって,
- 作者に直接要望を言えて,
- タイピングソフト利用者にとって違和感なく実装してくれる
という価値をユーザに提供していたことになる。と思う。で,フィードバックを実現していくことで,「この作者に要望を出せば理想のソフトができる」という信頼を得られ,さらにフィードバックが来るようになり,ループができた。
今作っているWeather Typing 3も,タイピングサミットでもらった要望をまとめあげる予定なのでそこはブレていないが,もう少し小出しに出していかないと求めるものとずれていってしまういそうだ。一応この日記で情報は出していってるが,動くものを少しずつ公開していった方がいいのだろう。
今後の作戦
じゃあAnalog Book Readerはこれからどうしようか。今までは,ターゲットが毎日本を読むヘビー読書家なので,Windowsアプリだとあんまりそんな人はいないのかなあ,くらいに思っていた。
でもこの本を読んだ後だと,例えば
- 現状,電子書籍リーダーは各社が自社のコンテンツを見るためのソフト(自主的な規制状態)になっているため,自由競争になっていない。
- ユーザは,電子書籍リーダーなんて紙に比べて読みにくいでしょ,と思っているため,電子リーダーだからこそできる価値に気付いていない
という,ある種ブレークスルー直前状態なわけで,ここになんとか貢献できないかなあ,という想いがある。
究極的には,電子書籍リーダーが,単なるおまけ的なアプリから,紙ではできなかった読書体験をするアプリとして認知されるようにしたい。なので,そういうコミュニティ的な活動が盛り上がってAmazonとかを巻き込んでいく必要があるんだろう。まだそんなコミュニティはなさそうなので,盛り上げることになるのだが,それをどうするか,そこまでは本には書いてない,よなあ。